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   2018.06.11.
一帯一路は“債務の罠”:中国は外交でアジアを蝕む! 
   
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中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」で起きている!
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 マレーシアのマハティール首相は なぜ中国参加の鉄道建設事業を見直したのか。
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 マレーシアで今年5月に実施された選挙で、92歳のマハティール・モハマド元首相が率いる野党連合が、政府の汚職に嫌悪感を抱いた有権者を動かし、予想外の勝利を収めた。
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 首相の座を奪還したマハティール氏の内政上の優先課題は、それまでのナジブ・ラザク首相と彼が政権与党として率いた統一マレー国民組織(UMNO)の汚職をどう摘発し、腐敗した統治機構をいかに建て直すかである。
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 同時に外交上の課題として、新首相は、マレーシアで「一帯一路」構想を推進する中国の経済進出が顕著であることに重大な懸念を示した。
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 これが汚職や腐敗の温床となっているのこともあり、同国とシンガポールを結ぶマレー半島高速鉄道計画や港湾建設、マレー半島南東沖の人工島建設などを含む事業を見直す方針だ。
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 その方針は、スリランカが陥った中国の「債務の罠」にはまってはならないとの強い危機感から発したものである。
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 スリランカの親中派ラジャパクサ前政権は、第3の国際港湾として計画したハンバントタ港の厖大な建設費の大半を中国からの融資に頼った。
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 しかし、財政難のスリランカは「悪夢のような返済」の目途が立たず、その代替措置として港を99年間中国国営企業に貸し出すことを強いられたのである(中国国営企業への貸し出しは、中国という国家への貸し出しと同じことである)。
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 選挙が終わった直後、マハティール氏は、次のように指摘し、中国に対する姿勢を見直すと明言していた。
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 「大金を持って現れ、それを貸してやると言うのが中国のやり方だ。・・・だが考えるべきだ。どうやって金を返すのかと」
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 「一部の国々はプロジェクトに目を奪われ、返済の部分を無視する。そしていつの間にか国の大半を失うのだ」
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 そして首相に就任した同氏は、中国が「一帯一路」構想の主要事業として受注攻勢をかけていた、同国とシンガポールを結ぶマレー半島高速鉄道計画の廃止を表明した。
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 また、中国が開発を進める、タイ国境近くから東海岸クアンタン港を経由し、西海岸のクラン港まで全長約690kmを結ぶ東海岸鉄道(ECRL)事業(2017年8月着工)について、中国と契約条件の再交渉を行っていることを明らかにした。
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 その際、マハティール首相は、下記のように述べ、前政権が続いていれば「国は破綻していた」と憂国の情を吐露したが、同時に、中国の「債務の罠」の具体的な手口を明らかにすることにもなった。
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 「総額550億リンギット(約1兆5000億円)の事業費は、融資する中国輸出入銀行から、受注した中国交通建設に直接支払われ、マレーシア側は一度も引き出していない。支払いは出来高でなく計画ベース。利息も含むと、中国への債務は920億リンギット(事業費の約1.7倍)に」(産経ニュース、2018.5.28 23:54)
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 マレーシアが中国輸出入銀行から融資を受けた事業費は、マレーシア側には一切支払われず、工事を受注した中国国営企業の懐に直接入る仕組みである。
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 さらに、支払いが計画ベースであることは、水増し請求や手抜き工事など、受注した中国国営企業が不当な利益を貪ることができる不正助長の構造にもなっており、中国の汚い「債務の罠」外交の実態が透けて見えるのである。
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 中国の「債務の罠」外交は、中国のシルクロード経済圏構想「一帯一路」のもとで繰り広げられている。
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 「一帯一路」構想は、一般的に中国の経済発展戦略と捉えられがちであるが、前述の「債務の罠」外交をはじめとする外交戦略、そして「真珠の首飾り」戦略に代表される軍事戦略などの分野と総合的かつ一体的に運用されるものである。
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 さらに、中国共産党の指導の下、「官民融合」政策によって企業や人民までも密接不離に取り込んだ戦略として推進される。
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 例えば、中国共産党は、2017年の中国共産党大会において、国営企業14万7000社のうち93.2%に、また外資企業の約7割に党組織を設置したと公表したように、外資企業を含め、ほぼすべての企業が中国共産党の統制監督下に置かれていることからも明らかである。
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 つまり、「一帯一路」構想は、中国の国家目標である <中国の夢>としての「中華民族の偉大な復興」を果たすため、「接近阻止・領域拒否(A2/AD)」戦略とともに、グローバル・ガバナンスの強化・変革、言い換えれば、中国の世界的覇権拡大の野望を推進する構想として位置づけられているのである。
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 経済発展戦略としては、資源エネルギーの獲得と「世界の工場」である自国の巨大な生産能力・建設能力の海外進出を主眼としており、国内の地域発展戦略と「一帯一路」沿線国・地域との連接性の強化を課題としている。
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 そのため、交通インフラ(港湾、鉄道、高速道、ガス・石油パイプライン)を重視したアクセスの整備に力点を置き、それらのネットワーク化を強化して勢力圏・影響圏を逐次拡大する手法を採っている。
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 インフラ整備には借款、投資、融資などが必要であり、それを行うためアジアインフラ投資銀行(AIIB)やシルクロード基金、BRICS開発銀行などの金融機関が準備されている。
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 マレーシアの例が示すように、中国は、最も使い勝手のいい国務院直属の中国輸出入銀行をもって、金融・経済支援ではなく法外な高額・高金利の融資を持ちかけ、それが「債務の罠」の仕かけとして巧妙に作用している事実に着目しなければならない。
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 外交戦略としては、外交上の常套句・慣用句である「平和外交、平和的発展、平和共存」を唱えながらも、「一帯一路」構想を影響力拡大の機会として位置づけ、外国の大学などに「孔子学院」を設置して文化交流・人的往来などの人文交流を行いつつ、「チャーム・オフェンシブ」あるいは「笑裏蔵刀(微笑みの裏に刀を隠せ)」を推進している。
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 上海協力機構(SCO)やG20等の既存の多国間制度・協力枠組みを活用しつつ、特にインド洋、アフリカ、中東、中央アジア、欧州(中・東欧)の沿線国と「戦略的パートナーシップ協定」を結ぶなど、包括的な関係の構築と連結性の強化を図っている。
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 特に注意しなければならないのは、前述の「債務の罠」外交である。
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 これをもって、政治的連携を強要しつつ政治的影響力を拡大し、もし相手国が債務不履行に陥れば、土地やインフラを収奪する。その末路は、相手国の植民地化であり、軍事基地化である。
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 軍事戦略としては、まず「マラッカ・ジレンマ」の改善、すなわち、マラッカ海峡への過度の依存を回避するため、同海峡をバイパスする海路と陸路の連結性を高めることである。
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 そして、南アジアの盟主であり、自らを「歴史的に海洋国家」と規定し、安全と繁栄のために「インド洋が死活的に重要」と考えるインドを軍事的に封じ込めることである。
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 そのために採用したのが「真珠の首飾り」戦略である。
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 インドを取り巻く周辺国に港湾を建設して補給・修理・休養施設等の作戦基盤を整備し、軍事基地化を図りながら、海軍を中心とした立体的な軍事力の展開と作戦能力を強化して、インド洋を有効支配し海上交通路を確保する策略である。
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 中国は、ミャンマーのチャウピュー、バングラデシュのチッタゴンに港湾拠点を確保している。バングラデシュは、中国から引き渡された明級潜水艦をクトゥプディア海軍基地に配備しており、同基地に中国がアクセスを求める可能性がある。
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 中国(国営企業)は、スリランカのハンバントタ港を99年間租借しており、長期の租借によって港が軍事拠点化される懸念がある。
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 中国はモルディブ北部のイハヴァンディフル岩礁で総合開発プロジェクトに参加しており、中国海軍の支援基地化が懸念されている。
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 パキスタンのグワダルで港湾整備に携わってきた中国は、2015年にパキスタン側と同港の43年間の租借で合意した。グワダル港は「中パ経済回廊」のインド洋とアラビア海へのゲ-トウェィ(玄関)に当たり、同港を含め、ジワニ(イラン国境に近い)やオルマラに第2の海外軍事基地を建設すると見られている。
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 中国は、海外に軍事基地を作らないと公言してきたが、アデン湾から紅海に至る海路の要衝であるマンダブ海峡に面したジプチに初の海外軍事基地を建設した。
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 2017年7月に運用開始されたこの基地は、3段階のセキュリティーガードを備えた厳重な警備を敷き、2万3000㎡の地下施設が建設され、弾薬や燃料の保管場所として使われると見られる大規模で、本格的な軍事基地である。
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 中国は、インドを軍事的に封じ込める「真珠の首飾り」戦略をものすごい勢いで進めている。
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 他方、中国は、武器輸出を軍事戦略の有力な手段としている。
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 「一帯一路」構想の目的に沿う形で、東南アジア、南アジア、中央アジア、中東、アフリカなどの沿線国を中心に、小型武器、戦車、潜水艦、航空機などの武器を輸出して相手国との戦略的関係を強化し、政治的・軍事的影響力の拡大を図っている。
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 この地域の殆どの国は発展途上国であり、武器製造の能力を持たないため、武器輸入 を契機として中国への依存体質を強める傾向にある。
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 その際、中国は、財政が豊かでない国に対し、資源エネルギーとのバーター取引を推奨していることもあり、その要因の一つになっている。
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 中国の「一帯一路」構想は、グローバル・ガバナンスを強化・変革する構想として位置づけられ、経済戦略、外交戦略、軍事戦略などが総合的かつ一体的に運用され、中国共産党の指導の下、「官民融合」により国を挙げて推進されている。
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